8月に訪問した滋賀のナインリーヴス蒸留所のご報告の続きです

 



 

蒸留所の内観を拝見した時は驚きました。

かつて訪れたどのラムの蒸留所とも全く違った構成になっていたからです。

 

竹内氏がどの国のラム生産の様式を参考にされたのか知りたくて

「海外ではどの蒸留所を視察されましたか」 と尋ねると

「グレンファークラス・グレンリヴェット・グレンフィディックです」と答えられました。

 

ナインリーヴスは

スコッチ・ウイスキー生産の技法を応用して

新しい日本のラムを産み出す蒸留所です。

 



 

蒸留所の内部の全景写真です。

生産設備がコンパクトに機能的に配置されています。

 

1. 1回の仕込みは最大1000ℓ。120kgの黒糖をハンマーで砕き、左端の緑色のタンクで熱した仕込み水に溶かす。

2. 左の銀色の2つのタンクが発酵槽。冷ました溶液に国産パン酵母を加え約4日発酵。6~7%のアルコール度数に。

3. 左の初溜釜で一回目の蒸留。右端のボイラーで釜内部の蛇管に蒸気を通して加熱。18%で300ℓに。

4. 右の再溜釜で二回目の蒸留。中央のスピリット・セーフで蒸留液を選別。58%100ℓで完成。

 

 



 

ナインリーヴスの蒸留釜の形状には不思議な違和感を覚えます。

一対二基のそれぞれで

釜の目的が全く異なるからです。

これでスコッチ・ウイスキーを造るなら特殊な例になりますが

“日本で” “ラムを” 造るには理に適っているのです。

 

一般に背の低い釜は重い酒質を

背の高い釜はすっきりとした酒質を生み出します。

 



 

ナインリーヴスの初溜釜は前者のタイプです。

秩父蒸留所のそれを意識して造られた釜は

発酵した黒糖の香味を余すことなく凝縮します。

 

再溜釜は後者です。

グレンモーレンジを意識して造られ

初溜液の中から特に揮発性の高いエステリーな部分を、

バルジ付きのロング・ネックがゆっくりと取り出します。

これは木樽での熟成が必須なウイスキーと違って

蒸留液がそのまま完成形ともなるラムを造るためのものです。

 

ナインリーヴス・クリアは吟醸酒のような華やかな香りが身上です。

それはこの再溜釜の形状に因るところが大きいでしょう。

 

ではなぜ初溜釜はネガティブな部分も含めて多くの要素を取り出す形なのでしょう。

実は日本の蒸留所では本場スコットランドでは出来ないとされていることが出来るからなのです。

それは

 



 

スピリット・セーフの蓋を開けて随時官能検査をしながら選別することです。

スコットランドのフォーサイス社製のこのスピリット・セーフにも

立派な錠前を付ける部分がありますが

鍵は掛けられておりません。

 

本場では税制上の慣習で、技師がスピリット・セーフの鍵を開けることはできません。

そのため比重計とタイマーを見てカットの判断をしなければなりませんが

ナインリーブスでは竹内氏が常に香味を確認しながらカットする部分を決めていきます。

そのための釜の形なのでしょう。

 

香りの良いヘッドの部分を極力多く取り出し

ミドルの途中に変則的に現れる焼酎様の香味の部分を更に精査して取り除き

テールの粘土のような風味の予兆をいち早く感知することができるのです。

 


 

 

大きな資本力を持った大きな蒸留所でしか出来ないこともあります。

逆もまた然りです。

ナインリーヴスはその創立の理念通り、竹内氏の手が隅々まで行き届いた山中の草庵のような蒸留所です。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます。