カテゴリー : 蒸留所・生産者訪問記

ポール・ジロー トレ・ラール 90年代流通品

 

 

時は秋。熟成酒の季節です。

 

開封いたしました

ポール・ジロー トレ・ラール 90年代流通品

Paul Giraud  Tres Rare /40% / bot. 90’s

H 1100 / F 2000

 


 

懐かしいボトルが市場に出ていましたので

購入いたしました。

 

日本でも人気のコニャックの造り手、ポール・ジローの90年代流通品です。

販売元によると1996年のボトリングだそうです。

以前御本人より1959年蒸留のシングル・ヴィンテージとお伺いいたしました

 

開封から濃密な甘い果実香です。

口内にも新鮮な果汁のような繊細な甘みが広がり

白木のような上質な渋みが引き締めます。

 

大手メゾンの古酒のような重厚で芳醇な迫力のあるタイプではありませんが

カラメル無添加で果実味に重きを置いた端麗な構成です。

 

コニャックの魅力の全てが愉しめるボトルではありませんが

一つの方向性の完成形と申し上げても良い程の品質に達しています。

 

良心的な価格で、ある程度の本数入ったようですので

御自宅用に、あるいはお店に何か良いブランデーを一本、という方に

御購入を強くお薦めさせていただきます。

 

 



 

当店では贅沢にもサイドカーに仕立ててみました。

銘酒に蛇足とならないよう最小の手を加えました。

価格もお得な2000円といたしましたので

この機会にお試しくださいませ。

 

 

 

 

ポール・ジロー氏のメゾンを訪れたのは2004年のことです。

いつか記事にしようと思ったまま、もう10年も経ってしまいました。

 

私は運転しての生産者訪問はしませんので

コニャック市から2駅先のシャトーヌフ・シュル・シャラントから

メゾンのあるブートヴィル村まで、霧雨降るぶどう畑の中を7kmほど歩きました。

 


 

この道をひたすら進みます。他に歩く人はいません。

 


 



 

なだらかな丘陵地帯です。ただただぶどう畑が広がります。

 


 

2時間半ほど歩くとブートヴィルです。心地良い散歩でした。

 


 

木の奥がラベルに描かれているジロー家のメゾンです。

 


 

当主のポール・ジロー氏にご案内していただきました。

この時、

“日本に出荷したトレラールは最初から今(2004年時点)まで、1959のシングル・ヴィンテージのみ”

と教えていただきました。

今回のボトルです。

 

最初の出荷のとき熟成年数を聞かれて、“35年”と答えたら

それから何年経っても35年と言われているよ。

と笑っていらっしゃいました。

 

ボンボンヌではなくフードルに移して熟成が進まないようにしていましたので

まだかなりの量があったのでしょうか。

 

かつては大手メゾンに原酒を卸していたそうですから

出来の良い特定のヴィンテージだけを自家用に確保したのかもしれません。

とはいえさすがに今はもう同じ原酒ではないのでしょうね。

エリタージュは1940年代の連続した3つのヴィンテージのバッティングだそうです。

 

 


 

蒸留工程と熟成庫を拝見して

居間で古酒のテイスティングもさせていただき

素晴らしい時間でした。

 

私は次の目的地、さらに7km先のスゴンザックまで陽が落ちる前に歩く予定でしたが

ありがたいことにジロー氏の運転で送っていただけることになりました。

 

上掲の写真は、途中丘の上でしばし車を降りて眺めたブートヴィルです。

教会は旧教と新教とが争わず融和した珍しい様式で、村の誇りなのだそうです。

 

 


 

ジロー氏には多くのことを教えていただきましたが

ちょうど訪れた前年がフランス全土で記録的な熱波の年でしたので

 

2003年のワインの出来はどうですか?

と尋ねると

 

プリムールでは好評で期待されているようだが、長じてはばらつきが出るのではないだろうか。

生産者の力が問われるだろう。

 

では2003年のコニャックの出来は、と尋ねると

 

コニャックの場合は・・もちろん葡萄の出来は大切だが、最も重要なのは蒸留の成否だ。

蒸留の温度・時間・カットのタイミング。蒸留液の精度こそがその年の出来を決める。

だから私は蒸留時には毛布を持ち込んで蒸留器を一晩中見ているのだ。

 

とお答えいただきました。

 

コニャック・ラム・スコッチと

様々なお酒を扱う中で、この教えは私の蒸留酒への理解の根幹になっています。

 

車内でもコニャックの次の目的地、アルマニャックの貴重な情報など親切に教えていただき

陽の傾いたスゴンザック村で、ジロー氏と別れました。

またいつかお会いしたいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

コニャック市に着いたのはこの3日前のことです。

着いて最初に訪れたのは、忘れもしないコニャック市警察署です。

その前日まで世界遺産の美しい町、ボルドー近郊のサンテミリオンに滞在していました。

 

その日は早朝にサンテミリオンを出発し、憧れのシュヴァル・ブランをご案内いただき

(まだ葡萄のバッジを付けて仕事をしていた頃です)

午後はポムロールを回って、それから列車を乗り継ぎコニャックへ向かいました。

 

途中ちょっとしたトラブルで予定が狂い、コニャック駅には終列車でなんとか着きました。

すでに街は真っ暗で、人も車も全く見かけず、

宿を探してゴーストタウンのような煉瓦の倉庫街を市中心部に急ぎました。

 

ようやくホテルらしき明かりが見えた時、ちょうど前方から初めて車が来て、ほっとしました。

しかしその車はなぜか私のすぐ横で急停止し、

「しまった!」と思った時には遅く、出てきた大男2人に前後を挟まれました。

 

強盗と覚悟しましたが襲っては来ず

ぼろぼろの手帳と短い警棒を見せて

「ポリス。ショウ・パスポート」と片言の英語で言ってきます。

 

2人ともラフな私服で自家用車です。どう見ても警官ではありません。

私はインドや東南アジアでの経験から、これは稚拙な偽警官詐欺だと判断して

とにかくパスポートを渡さずに人のいる場所へ行かねばと

 

「あのホテルのロビーで見せますから、一緒に来てください。」

と言って歩き出した瞬間、

後ろの男に掴まれ、地面に押し付けられ、警棒を頬に当てて制圧されました。

 

それからはあまりよく覚えていませんが

とにかく暴れながら大声で叫んでいたように思います。

すぐにパトカーのサイレンが聞こえ

「助かった!」と思いました。

 

パトカーから降りてきた警官は

彼らではなく

私に手錠をかけました。

 

つまり彼らは本物の私服警官で

私はパスポートの提示を拒否した上、大暴れした怪しい外国人だったのです。

 

手錠をかけられた後ろ手に、さらに自分の荷物を持たされて

口から流れる血を拭うことも出来ず

いつのまにか集まってきた街の人々に見られながら

パトカーで連行されたのがコニャック市警察です。

 

一時間ほどで誤解が解け、開放されましたが

翌日はショックで一日引きこもりました。

今となっては楽しい思い出です。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

五年間の歩みによせて

 

 

おかげさまで五周年記念祭も無事終了いたしました。

先月は雑誌掲載もあり忙しくさせていただきましたので

遅くなりましたが改めて弊店のこの五年間の歩みを総括いたします。

 


 

17年前東京で、やりたいこともやれることも無く

毎日を怠惰に無為に過ごしていた頃に

当時雑誌に連載されていた漫画に感化されて

「京都に行ってバーテンダーでもやってみようか」

と軽薄に考えたのが始まりでした。

 

その漫画は上掲の“酒場ミモザ”です。

かつて三条木屋町下るにあったリラ亭さんがモデルです。

加藤登紀子さんが“時代おくれの酒場”と唄った名店でした。

 

縁も無い京都に鞄一つを持って来て

一乗寺の山際に三畳一間で月一万五千円の部屋を借り

翌日にはバーテンダーのアルバイトの口を見つけました。

結局その店には12年お世話になりました。

 

カジュアルなバーでしたから

毎日軽口を叩くのが仕事みたいなもので

性に合って楽しく働かせていただきました。

 


 

夏は鴨川に納涼床が出て忙しく

休みなく働きました。

家賃も安く、使う間もなかったので

給料で古酒を買いこむようになりました。

 

冬は暇でいくらでも休めましたので

長期で海外に行くようになりました。

“酒場ミモザ”の主人公にならって

インド最南端のコモリン岬までハイボールを飲みに行きました。

 

初めは物価の安いアジアやインドでしたが

そのうちヨーロッパやカリブに酒造りを見に行くようになりました。

 

アルバイトの仕事が生涯の職となりました。

 


ジョルジオ・ダンブロージョ氏のコレクション・ルーム  ミラノにて

 

 

長く勤めると管理職になり、それは私には不向きでした。

再び現場に立つべく

独立を決めました。

 

私はラムとウイスキーが特別好きですから

それらを中心とした店をしようと考えました。

幸いボトルはもう部屋に数百本ありました。

 

店の名前を考えているときに

ふとまた数年ぶりに“酒場ミモザ”のページを開きました。

 



 

 

What is the life without love and whisky.

愛と酒なくして 何の人生ぞ

 

この文言を勝手に拝借して、もじって店名にいたしました。

結果、当初予定していなかったラムとウイスキーだけの専門店になりました。

 

開店初日に最初にお迎えしたお客様は

最も尊敬する偉大な先達、二条KのN氏でした。

こんなに嬉しいことはありません。

その日最後のお客様は

寺町の林檎のT氏と御幸町の揺り椅子のT氏のお二人組でした。

光栄の至りです。

 

それから五年間が過ぎ

N氏のようなホスピタリティや、ミモザのマスターのような包容力は持てませんでしたが

洋酒の魅力をできるだけ純粋に愉しんでいただけますよう

尽力しております。

 

五周年を超えて

今後の目標は

“より純粋に”

 

洋酒の魅力を皆様にお伝えすることを生業に選んだのですから

話術や、人脈や、しつらえの力を借りず

その技術と知識、洋酒への理解をより向上させることで

皆様にご満足いただける高みを目指したいと存じます。

 

偏狭な考えで

それはバーテンダーの仕事ではないと言われれば

そうかもしれません。

 

あと3、40年も続けて、

見るべきほどのことは見つ

という心境になったら

心から

酒の銘柄なんてなんでもいいんですよ。

と言う日が来るかもしれません。

 

それまではどうかお付き合い下さいませ。

 

 

 

 


 

 

今週売り切れたのはダンカンテイラーのボウモア1968と90年代のスプリングバンク15年です。

どちらも華やかな香り高い美酒でした。

ボウモアはハートブラザーズの68とプレストンフィールドの72が開いています。

スプリングバンクは新たにQE2の12年ジャグを開封いたしました。

蒸留は60年代かと思われます。おすすめです。

 

 

 



 

先の休日は御苑にある京都迎賓館に行って参りました。

年に一度、予約申し込みをして抽選制で参観できます。

金属探知や手荷物の開示もあり、さすがに厳重な警備です。

 

現代の和の意匠の粋で眼福でした。

写真は中庭の池に用意された和舟です。

ブータン国王夫妻も舟遊びを楽しまれたそうです。

 

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

 

ボウモア 1968-2002 34年 ハートブラザーズ

 

 

5周年記念祭を開催中です

 

5th Anniversary bottle, Aged Special Reserve Islay Malt Scotch Whisky /51.5%

Bowmore 1968-2002 /34yo /40.2% /Hart Brothers

Jamaican Rum Over 15yo /74% /Whiskyteca Giaccone

 


 

ウイスキーエクスチェンジ五周年記念のアイラ・ブレンデッド・モルトと

お好みの二杯をお選びいただいて

ハーフ・ショット三杯でチャージ込み5000円にてご提供しております。

上掲はセットの一例として新たに開封したものです。

 

どちらも気に入って何度か取り扱ったボトルです。

ハートブラザーズのボウモア1968は開封からトロピカル・フルーツ香全開で

ジャッコーネのジャマイカは旨味の凝縮度が凄いです。

 

もちろんこれら以外にも当店の全てのボトルからお選びいただけます。

 

記念ボトルが無くなるまで40セット強の御提供です。

3日間で十数セット御注文いただきました。

今週末までくらいのペースでしょうか。

 


 

皆様上手に選んでいらっしゃいます。

ボトラーからのおすすめは

ラフロイグ1976・アードベッグ1974・1978やキンクレイス1968・オード1965・ベンリアック1968などです。

 

 


 

オフィシャルからはファークラス25年・オーバン12年・ブローラ30年2004・ラガヴーリン1979など。

 


 

ブレンドやヴァッテッドがお好きな方にはエインズリー12年・ハイランドフュージリア・ストラスコノンや

ジョン・ウォーカーズ・オールデストなど。

 


 

コニャックからはレイモン・ラニョー・エリタージュ(1906蒸留)やジャン・ドゥ・ソヌヴィエイユ35年

ジャン・フィユーNo.1やピエール・ド・スゴンザック(ピエール・フェラン氏)など。

いくつかは現地でご本人から直接お譲りいただいた希少品です。

 

ムーン・インポートのLuigi Barileのグラッパや

アルマニャックでプライヴェートに詰めていただいた1971などもこの機会にいかがでしょうか。

 

 

また、今回よりHPの右にカテゴリー欄を新設いたしましたので御閲覧の際ご利用下さいませ。

 

 

 

 

先の休日は、急に思い立って久々に山崎蒸留所に行ってまいりました。

前日に申し込みましたので見学ツアーはほぼ満員でしたが

なんとか最終の枠に入れました。

日本のウイスキー造り発祥の聖地の

すぐ近くに住む幸運に感謝します。

 


 

通常のツアーでは昨年新たに増設されたポットスチルを見ることはできませんでしたが

いつ来ても新鮮な感動を覚えます。

 

ツアーの後、庭園のテラスでウイスキー片手に心地良い時間を過ごしました。

ミズナラ原酒と新緑の香りが良く合います。

こちらの山法師の花もちょうど見頃でした。

 

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

樽熟成のナインリーヴス“エンジェルス・ハーフ”

 

所用により20日(日)・21日(月)と休業させていただきます。

 

 

高瀬川の淡い桜色の季節も終わり、当店の前は黄金に輝く山吹が満開です。

 

新入荷です

ナインリーヴス “エンジェルス・ハーフ” アメリカン・オーク & フレンチ・オーク

Nine Leaves “Angel’s Half” American Oak & French Oak /50%

 



 

 

以前にも何度か御紹介いたしました本州初のラム蒸留所

滋賀県のナインリーヴスより

待望の樽熟成タイプ“エンジェルス・ハーフ”が到着いたしました。

今までの記事はこちら。Nine Leaves訪問記#1,#2,#3, あまから手帖掲載

 

樽材違いで2種、どちらも内側をトーストした250リットルの新樽で約6ヶ月の熟成です。

昨年の夏に蒸留所で詰められる前の樽を拝見いたしました。早いものです。

 



 

 

早速テイスティングいたしました。

とてもデリケートにたくさんの香味の要素が盛り込まれています。

2本を同時にリリースされたことに大きな意義を感じます。

 

比較しながら差異を拾っていくことによって

より深く樽熟成の神秘を知ることができる仕組みです。

 

まずはアメリカン・オーク・カスクです。

 

輝くような黄金色。

フランベしたバナナと洋梨。クレーム・ブリュレ。

バーボン樽熟成のスコッチ・ウイスキーでなじみのあるヴァニラ香。

わずかにレモンの酸。

 

続いてフレンチ・オーク・カスクです。

 

深い落ち着いた金銅色。

ローストしたアーモンド。樽熟成のジュネヴァ。

爽やかな上等のオリーブ・オイル。

わずかにペパーミントとタイム。

 


 

ナインリーヴス・クリアの最大の長所であった

妖艶なまでの濃厚で力強い香りは樽に吸収されましたが

これから身に着ける新しい深い魅力の萌芽を感じ取れます。

 

樽由来の香味はまだ充分とはいえず、またそれぞれの要素は一体化されずバラバラに感じられます。

まだ6ヶ月しか熟成していないのですから当然です。それでいいのです。

 

わずかな熟成期間なのに、特殊な加工によってそれなりの出来に仕上げられたお酒も多く存在します。

「よく出来てますね」 とは言われるかもしれませんが

それは長じても人を感動させるような物にはなりえないでしょう。

 

上質な原酒が上質な樽と環境の下できちんと熟成している、

お飲みいただければそれを確認することができるでしょう。

 

ラムの初心者を愛好家にしてしまうようなタイプのお酒ではありませんが

その背景を知って待ち望み

成長を見守ろうとする方にとっては

これ以上ない朗報と申し上げて良い出来であると保証いたします。

 

ラベルに記された

“Sincerely Made, Rum from Japan” の文言。

その理念が貫かれています。

 

このボトルを扱うことを誇りに思います。

 

 

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8017 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番より北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休     チャージ500円                TEL 075-211-1721
3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので勝手ながらお一組3名様までにてお承りさせていただきます

ナインリーヴス蒸留所訪問記 #3

 

ナインリーヴス蒸留所訪問記の続きです

前回は再溜の工程までを御紹介いたしました。

 


 

蒸留液はいったんタンクに貯められ、加水・フィルタリング・ボトリングされて完成します。

加水するのはもちろん仕込み水と同じ鉱山の湧水です。

驚くべきことに、ミネラル除去も加熱殺菌も行わない生水での加水だそうです。

 

これは日本では珍しい非加熱ミネラル・ウォーターの採水地だからこそできることで

蒸留酒の加水に使われるのは、知る限り世界でも稀な例だと思います。

 

 

蒸留所のすぐ横の木々の間にトロッコの線路跡があり

 



 

木々の奥に坑道の入口があります。

 



 

中は夏でも寒いほどです。

急勾配で下ります。

廃坑の設備は錆びて朽ちています。

 


 

50m程下ると、突如大聖堂の内陣のような巨大な空間に出ます。

鉱脈を掘った跡です。

 



 

さらに奥へ

 



 

天井の低い坑道を屈んで進むと

 



 

水源です。

冷たい岩深水が噴出しています。

 



 

坑道は更に深く、ずっと下へと続いていましたが

とてもそれ以上は進めませんでした。

 

この美しい水を加えて、ナインリーブスは完成します。

 

 



 

 

こうして造られたNINE LEAVES CLEARは、どうお飲みいただくのが良いのでしょう。

 

華やかな香りと重厚で複雑な味わいは、是非そのままでお愉しみいただきたいところです。

陶酔していただける品質です。

 

しかしまだ本邦では皆様ホワイト・ラムの香味に慣れておられませんし

初めは気軽にお試しいただけるカクテルも御提案させていただきます。

 

 

世界のラムの例を見ても

まずはシグネチャー・カクテルで香味を知って、慣れていただき

それから徐々にお酒そのものへの興味をもって愛好していただくのが

定石かと思います。

 

生産者の竹内氏のお勧めは、コーラで割ったカクテル、“クバ・リブレ”です。

御一緒した銀座 Bar Lampの中山氏によって“滋賀リブレ”と名付けられました。

 


 

滋賀リブレ

 

ナインリーヴス・クリア 45ml

ライム 1/4カット

瓶のコーラ 適量で満たす

 

コーラは強い味わいで混ぜた酒の味を染めてしまいますが

染まらないナインリーヴスあってこそのカクテルです。

飲み易く、かつ個性も主張して、シグネチャー・カクテルに最適です。

ネーミングも洒落ていて、語感も良いです。

 

 

私も真似て考案いたしました。

ピニャ・コラーダのナインリーヴス版で、“琵琶・湖ラーダ”です。

 


 

琵琶・湖ラーダ

 

ナインリーヴス・クリア 40ml

モナン・ココナッツ・シロップ 15ml

生クリーム(牛乳で代用できます) 10ml

パイナップル・ジュース 80ml

カット・パイン 1/4 リング (カットして冷凍保存できます)

 

以上をクラッシュ・アイス1カップとともにミキサーにかけ、ゆるいフローズンにします。

 

これも香味の強い副材料を使い、ナインリーヴスならではの個性を引き立てました。

子供っぽい名前ですがおいしさには変わりありません。

 

 

もう一つ、これからの秋冬に向けて、身体の温まるジンジャーのカクテルも考えました。

バーミューダのゴスリング・ラムのシグネチャー・カクテル“ダークン・ストーミー”のアレンジで

“ダークン・スト近江”です。

 


 

ダークン・スト近江

 

ナインリーヴス・クリア 45ml

フィーバーツリー・ジンジャービア 100ml

ライム 1/4カット

 

小さめに砕いた氷とともに、銅のマグカップに満たす。

 

ラムのモスコミュールですね。シンプルでおいしいですよ。

名前はもっとセンスのある人に付け直してもらいたいですね。

 

 

次回はナインリーヴス・熟成編です。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

ナインリーヴス蒸留所訪問記 #2

 

8月に訪問した滋賀のナインリーヴス蒸留所のご報告の続きです

 



 

蒸留所の内観を拝見した時は驚きました。

かつて訪れたどのラムの蒸留所とも全く違った構成になっていたからです。

 

竹内氏がどの国のラム生産の様式を参考にされたのか知りたくて

「海外ではどの蒸留所を視察されましたか」 と尋ねると

「グレンファークラス・グレンリヴェット・グレンフィディックです」と答えられました。

 

ナインリーヴスは

スコッチ・ウイスキー生産の技法を応用して

新しい日本のラムを産み出す蒸留所です。

 



 

蒸留所の内部の全景写真です。

生産設備がコンパクトに機能的に配置されています。

 

1. 1回の仕込みは最大1000ℓ。120kgの黒糖をハンマーで砕き、左端の緑色のタンクで熱した仕込み水に溶かす。

2. 左の銀色の2つのタンクが発酵槽。冷ました溶液に国産パン酵母を加え約4日発酵。6~7%のアルコール度数に。

3. 左の初溜釜で一回目の蒸留。右端のボイラーで釜内部の蛇管に蒸気を通して加熱。18%で300ℓに。

4. 右の再溜釜で二回目の蒸留。中央のスピリット・セーフで蒸留液を選別。58%100ℓで完成。

 

 



 

ナインリーヴスの蒸留釜の形状には不思議な違和感を覚えます。

一対二基のそれぞれで

釜の目的が全く異なるからです。

これでスコッチ・ウイスキーを造るなら特殊な例になりますが

“日本で” “ラムを” 造るには理に適っているのです。

 

一般に背の低い釜は重い酒質を

背の高い釜はすっきりとした酒質を生み出します。

 



 

ナインリーヴスの初溜釜は前者のタイプです。

秩父蒸留所のそれを意識して造られた釜は

発酵した黒糖の香味を余すことなく凝縮します。

 

再溜釜は後者です。

グレンモーレンジを意識して造られ

初溜液の中から特に揮発性の高いエステリーな部分を、

バルジ付きのロング・ネックがゆっくりと取り出します。

これは木樽での熟成が必須なウイスキーと違って

蒸留液がそのまま完成形ともなるラムを造るためのものです。

 

ナインリーヴス・クリアは吟醸酒のような華やかな香りが身上です。

それはこの再溜釜の形状に因るところが大きいでしょう。

 

ではなぜ初溜釜はネガティブな部分も含めて多くの要素を取り出す形なのでしょう。

実は日本の蒸留所では本場スコットランドでは出来ないとされていることが出来るからなのです。

それは

 



 

スピリット・セーフの蓋を開けて随時官能検査をしながら選別することです。

スコットランドのフォーサイス社製のこのスピリット・セーフにも

立派な錠前を付ける部分がありますが

鍵は掛けられておりません。

 

本場では税制上の慣習で、技師がスピリット・セーフの鍵を開けることはできません。

そのため比重計とタイマーを見てカットの判断をしなければなりませんが

ナインリーブスでは竹内氏が常に香味を確認しながらカットする部分を決めていきます。

そのための釜の形なのでしょう。

 

香りの良いヘッドの部分を極力多く取り出し

ミドルの途中に変則的に現れる焼酎様の香味の部分を更に精査して取り除き

テールの粘土のような風味の予兆をいち早く感知することができるのです。

 


 

 

大きな資本力を持った大きな蒸留所でしか出来ないこともあります。

逆もまた然りです。

ナインリーヴスはその創立の理念通り、竹内氏の手が隅々まで行き届いた山中の草庵のような蒸留所です。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます。

ナインリーヴス蒸留所訪問記 #1

 

8月27日、本州初のラム蒸留所、ナインリーヴスを訪ねてお隣の滋賀県へ行きました。

 

蒸留所訪問としては2007年2月に北イタリア、バッサーノ・デル・グラッパ郊外のポリ社を

当主ジャコポ氏に御案内いただいて以来、

またラムの蒸留所としては2005年10月にカリブ海仏領グアドループ島の

ダモワゾーを訪ねて以来久々となりました。

 

開店から早4年、日々の業務に追われて近畿からも出ておりませんが

まさか畿内でラムの生産を見学できる日が来るとは望外です。

造り手でオーナーの竹内義治氏がお一人で造っていらっしゃる

マイクロ・ディスティラリーです。

 

今回は再溜の工程を拝見させていただきました。

写真はグレンモーレンジのスティルの形状を参考に造られた、フォーサイス社製の再溜釜です。

奥の初溜釜はベンチャー・ウイスキーの秩父蒸留所のそれを意識して造られました。

 


 

「東京のバーテンダーの方も御一緒するかもしれません」

との連絡をいただき、おそらく・・と思いましたが

予想通り日本ラム協会の中山篤志氏と再会できました。

銀座 Bar Lampのマスターで、ガイアナやモーリシャス、レユニオンも訪れた

日本のラム業界の最前線を行く方です。さすがの行動力です。

 

石山駅から、壬申の乱の古戦場として有名な瀬田川沿いに進み

岩間山麓を登る途中の少し開けた高台に蒸留所があります。

 

 



 

 

その隣にはこの地に蒸留所を建設する所以となった長石鉱山の坑道があります。

現在は廃坑ですがその地下深くに仕込み水の源泉があります。

日本では希少な非加熱のミネラル・ウォーターとして販売もされています。

 



 

 

ラムは世界で最も生産版図の広範な蒸留酒です。

蒸留所の数を正確に把握することは困難ですが

一説には4000程度はあるとも云われています。

統廃合で急激に減少しつつあるようですが

かつて立ち寄ったタイのサムイ島にも小さなラムの蒸留所があり、驚きました。

 

それら世界のラムの蒸留所のほとんどが、以下のどちらかの条件のもとに造られています。

・原料(さとうきび・糖蜜)を確保しやすい環境にある

・蒸留設備がすでにあり、原料を変えるだけでラムを生産できる

 

ナインリーヴスはそのどちらにも当てはまらない、世界でも稀有な蒸留所です。

竹内氏の確固たる理念によって誕生した、全く新しい生産のスタイルといえます。

 

次回より具体的な生産方法を御紹介していこうと思います。

 

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

追悼 ミッシェル・クーヴレー

 

8月17日、ミッシェル・クーヴレー氏が亡くなられたようだ。享年85歳。

 

2004年に氏のブルゴーニュの邸宅を訪問しました。

ボーヌの駅まで運転して迎えに来てくださり、恐縮しました。

「ここに来た日本のバーマンは君一人だけだ」

今もその時の声と表情を明確に思い出せます。

 

氏の所有畑のアリゴテとともに

 

氏の偉業については多くの方が記されていて、改めて書く必要は無いでしょう。

一つ加えるなら、氏はAOCの理念に基づいてスコッチ・ウイスキーを本来の姿に戻そうとしていた。

 

低きに流れんとする業界に危機感を抱き

文化が頂点を迎えた19世紀のやり方を忠実に再現しようとしていた。

その結晶が“シングル・シングル・ベレ・バーレイ”だった。
 

過熟・過剰、もしくは未熟・未完成などと評されながらも

その作品の中に濃厚な熟成シェリーの魅力や淡白なオー・ド・ヴィの味わいを表現し続けた。

 

 

氏のオー・ド・ヴィ。これはミラベル。

 

1984年から始まった“シングル・シングル・ベレ・バーレイ”のプロジェクトの中には

品種・製麦・樽という

現在のスコッチ・ウイスキーがまず解決しなければならない3つの問題が

全て盛り込まれています。

 


 パラディにて大瓶で眠る最後のベレ・バーレイ

 

昨年末にブルイックラディから、続いてアランから、ベア種のウイスキーが発売されました。

氏の投じた一石が少しずつ、確実に業界全体を導いています。

 

 

晩年の作品には苦味や硫黄香のあるものが多く

少し遠ざかっていました。

氏でももはや良いシェリー樽を入手するのは困難なのだろうかと思っていましたが

あるいは私などの知りえない何かを表現しようとされていたのかもしれません。

 

 

今はただ感謝を述べるのみです。

 

 

 

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

旧ボトル初期仕様 ロン・サカパ・センテナリオ 

 

開封いたしました

ロン・サカパ・センテナリオ 23年 90年代初頭以前流通品

Ron Zacapa Centenario 23anos /bot. pre 1993

H 1000 / F 1800

 


 

人気のグアテマラ産の甘口ラム、ロン・サカパ・センテナリオの少し古いボトルを開封いたしました。

やしの葉で編んだペタテに包まれたこのボトルは旧来の愛好家には懐かしい物ですが

生産時期によっていくつかのタイプがありました。

グアテマラのサカパ市の市制施行100周年を記念して1976年に生まれたロンサカパが

日本の“世界の名酒事典”に初登場するのは1990年版からで、それが今回開封した上掲ラベルです。

 


 

写真左のラベルが90-93年版までで、中央が2004.2005年版に載っています。

94-2003は左ラベルのデザインに中央ラベルの筆記体のロゴを合わせたようなラベルなのですが

現在当店には空瓶も見当たりませんでした。

2006年からは現行同様の帯状ペタテの23anosラベルになります。

現行品はSISTEMA SOLERA 23 表記です。

右は旧エチケッタ・ネグラです。左以外は空瓶です。

 

今回開封いたしました初期ロットは

とてもドライな味わいです。

もちろんサカパらしいカラメルと甘口シェリー様の甘味はあるのですが

現行に比べますとずっと控えめに抑えられています。

パンペロなどもこの数年間で随分甘くなりましたので

旧スペイン領のラム全体の傾向なのかもしれません。

 


 

ロン・サカパの特別品もいろいろ扱いましたが

ここ最近特に人気が出てほとんど売切れてしまいました。

エチケッタ・ネグラは少しビターで

ストレート・フロム・カスクは強いバーボン樽由来の香りと引き締まった味わいでした。

XOの2003年エディションは甘味が自然で複雑さがあり、おすすめでした。

2006年発売の30周年も先月空きましたが、ボトルは記念にお客様がお持ち帰りになりました。

通常のXOをより上品にしたシルキーな質感でした。

 

これらの特別品は価格の高騰もあり、しばらく当店での扱いは無いと思います。

今回の旧ボトルも希少になりましたので

是非お早めにお試し下さいませ。

 

 

 

昨日はお隣滋賀県のナインリーヴス蒸留所を訪れ

竹内義治氏の御案内で再留の過程を見学させていただきました。

 


 

また長石鉱山の地下深くに湧き出る水源も拝見させていただきました。

詳細なリポートは次回以降に掲載させていただきます。

 


 

 

残暑厳しい一日でしたが

鉱道に入るとひんやりと涼しく

ヘルメット装備で数十メートル下った先に湧き出る岩清水は

正に“命の水”でした。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます

ディロン 2002-2012 10年 ダンカンテイラー

 

新入荷です

ディロン 2002-2012 10年 ダンカンテイラー

Dillon 2002-2012 /10yo /Duncan Taylor /54.5% /#4 /240bts

F 1200

 


 

ダンカンテイラーが新たにラムのボトリングを始めたとのことで

国内に輸入された6種のうちの一本です。

初回からカリブ周辺のバラエティ豊かな原酒を集めてますが

注目はこのディロンです。

ボトラーからのマルティニーク・ラムで蒸留所名が明示されたことがかつてあったのでしょうか。

私の記憶にはありません。

シングルカスクで、冷却濾過・着色・加水無しというのも仏領からは珍しいでしょう。

今回は他にキューバのサンクティ・スピリタス蒸留所も詰めており

大手ボトラーからのまた買いだけでは無い独自のルートの存在を感じさせ、期待させます。

 

公式のテイスティング・コメントにリードされながら飲んでいくと

サフランやストロベリー・ジャム、シナモン、レモンと青草の香り。

未熟なパッション・フルーツの酸味、マスタードとペッパーの刺激、魚介の旨味と塩とオイル。

 

オフィシャルのXOよりは明らかに淡いレモン・イエローで

XOに特徴的なバーボン樽由来と思われるバニラ香が無く、コニャック樽熟成でしょうか。

700mlで240本は南国なら自然な目減り量に思えます。

アッサンブラージュによる複雑さがない代わりに

シングルカスクならではの個性を愉しめます。

仏領ラムの愛好家の好奇心をそそるボトルです。お試し下さい。

 

 

ディロンは2005年を最後に操業を止め、現在はドゥパズで造られています。

私もその年に訪れましたが、すでに蒸留所は停止していました。

事務所兼資料館で尋ねると自由に入って見てくれとのことで

巨大な蒸留所を一人で勝手に見て回りました。

窓から南国の強い陽光が差し込み

もう動くことの無い赤銅の装置を静かに輝かせていました。

 

 

 

 

Rum and Whisky   (ラム・アンド・ウイスキー)

604-8014 京都市中京区木屋町三条下る材木町188-3 光ビル4階東 (木屋町交番から北に7軒目)

20時から翌4時 火曜休  チャージ500円

3時以降でノーゲストの場合は閉店させていただくことがございます

小さな店でございますので僭越ながら御一組3名様までにてお承りさせていただきます。

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